東京高等裁判所 昭和31年(ラ)235号 決定
本件抗告の理由の要旨は、「債権者関谷正次は抗告人に対する東京地方裁判所昭和二十九年(ワ)第九二九四号土地建物明渡等請求事件の執行力ある判決正本に基ずき、昭和三十一年二月二十二日抗告人に対し、東京地方裁判所執行吏深谷兵馬をして別紙目録記載の土地建物につき明渡の強制執行をなさしめた。しかしながら右建物には右強制執行の当時から抗告人の夫長谷川脇が抗告人と同居しており、同人も本件建物を占有しているのであつて、民法第七百五十二条の規定によれば、夫婦は同居し相互に協力扶助をなす権利義務を有するのであるから、妻たる抗告人に対する債務名義のみを以つて強制執行をなすことは許されない。すなわち、本件強制執行により妻である抗告人を建物外に転出せしめることは、前示夫婦の同居の権利を侵害する結果を生ずるものであるから、民法第一条、憲法第十二条に違反する権利の乱用である。しかるに、原審が抗告人の異議申立を却下したのは違法であるから、その取消を求める。」というのであるが、記録に徴するに本件債務名義たる判決は抗告人に対し本件建物の明渡を命じたものであつて、抗告人が本件建物を現に占拠していることが明らかである以上、抗告人に対する本件強制執行は適法であつて、仮りに抗告人主張のように抗告人の夫長谷川脇が本件建物に同居しているとしても、抗告人に対して執行をなすことを妨げるものではない。けだし、民法第七百五十二条の規定は夫婦相互の間における同居並びに協力扶助の権利義務を規定するにとゞまるものであるところ、本件強制執行はなんら抗告人の夫長谷川脇に対して抗告人と別居することを強制するものではない(長谷川脇は本件建物に居住することを強制されるものではない)のであるから、本件執行が抗告人主張のような権利侵害の結果を生ずるものとは認め難い。
よつて本件強制執行を以つて民法第一条、憲法第十二条に違反する権利の乱用なりとなすは当らない。
(岡咲 龜山 脇屋)